COLUMN

医療承継を考えるための視点

2026/10/11

後継者がいても、医院承継がうまくいくとは限らない

「息子も医師なので、いずれ医院を継いでもらおうと思っています」

医院承継のお話をしていると、こうしたお話を伺うことがあります。

医師であるお子さまがいる。

医院で長く勤務している先生がいる。

そうした後継者候補がいることは、医院の将来を考えるうえで大きな安心材料です。

一方で、後継者がいることと、医院承継の準備ができていることは、必ずしも同じではありません。

実際には、後継者が決まっている医院だからこそ、早めに話し合っておいた方がよいことがあります。

 

本人は、本当に継ぎたいと思っているのか

最初に確認したいのは、後継者候補となっている方自身の意思です。

たとえば、お子さまが医師であったとしても、

現在勤務している病院でキャリアを築きたい。

大学に残りたい。

専門分野を続けたい。

開業するのであれば、自分自身で一から医院をつくりたい。

そう考えている可能性もあります。

親御さまからすると、

「医師になったのだから、いずれ医院を継ぐだろう」

と思っていても、お子さま側では違う将来を考えていることがあります。

この認識の違いが、承継直前になって初めて分かると、医院側の選択肢は一気に少なくなってしまいます。

だからこそ、まず必要なのは「継いでくれるだろう」という前提ではなく、本人の考えを確認することです。

 

医師であることと、経営者になることは違う

医院を承継するということは、診療を引き継ぐだけではありません。

職員の雇用やマネジメント。

資金繰り。

金融機関との関係。

医療機器や不動産。

採用。

患者さまや地域との関係。

さまざまなものを引き継ぐことになります。

つまり、勤務医から医院を承継する場合には、医師から経営者になるという大きな変化があります。

診療について十分な経験があったとしても、経営については初めてというケースは珍しくありません。

そのため、院長交代の日だけを決めるのではなく、承継までの期間を使って経営について少しずつ共有していくことが大切です。

 

「今まで通り」が正解とは限らない

もう一つ、親子承継などで起こりやすいのが、経営方針の違いです。

先代の先生には、長年医院を経営してきた経験があります。

一方で、後継者となる先生には、

「こういう診療をしたい」

「設備を新しくしたい」

「診療時間を変えたい」

「新しい人材を採用したい」

といった考えがあるかもしれません。

ここで、

「これまでこのやり方でうまくいってきたのだから、そのまま続ければいい」

となってしまうと、承継後に双方の考えがぶつかることがあります。

医院を引き継ぐ以上、守った方がよいものもあります。

一方で、次の世代に任せる以上、変えていくことを受け入れなければならない部分もあります。

 

何を残し、何を任せるのか

これも、承継前に話しておきたい重要なテーマです。

家族の問題も、医院の問題と切り離せない

特に親族承継では、医院の承継と家族の問題が重なります。

たとえば、医師であるお子さまが複数いる場合。

医院を継ぐ方と、継がない方がいる場合。

医院の土地や建物を親族が所有している場合。

医療法人に出資持分がある場合。

こうしたケースでは、「医院を誰が継ぐか」だけでなく、ご家族全体で整理しておいた方がよい事項が出てくることがあります。

親子だからこそ話しやすいこともあれば、反対に、親子だからこそ話しにくいこともあります。

そのため、必要に応じて税理士や弁護士などの専門家を交えながら、感情と実務を分けて整理していくことも重要です。

 

後継者がいる医院ほど、早めに準備できる

後継者がいるということは、本来、大きな強みです。

だからこそ、その強みを生かすためには、

「誰が継ぐのか」

だけではなく、

「いつ継ぐのか」

「どのような形で継ぐのか」

「何を引き継ぐのか」

「現院長は承継後どう関わるのか」

「職員や患者さまへいつ伝えるのか」

といったところまで、少しずつ具体化していく必要があります。

そして、話し合った結果、親族承継をしないという結論になる可能性もあります。

それも決して失敗ではありません。

早めに分かれば、院内承継や第三者承継など、別の方法を検討する時間を持つことができます。

 

大切なのは、「後継者がいるから安心」で終わらせないこと

後継者候補がいる。

それだけで医院承継が完了するわけではありません。

本人の意思、承継時期、経営、家族、職員、財務。

一つずつ整理して初めて、具体的な承継の形が見えてきます。

逆に言えば、後継者がいる医院は、時間を味方につけながら準備できる可能性があります。

「いつか継いでもらうから大丈夫」

と考えるのではなく、その“いつか”について一度話してみる。

それが、円滑な医院承継に向けた大切な一歩だと私たちは考えています。

 

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